アイするスポーツプロジェクト

島根医大眼科ゴールボールチームの記事が「日本の眼科」に掲載されました

島根医大眼科ゴールボールチームの記事が「日本の眼科」に掲載されました

島根大学眼科学講座 
ゴールボールチーム「スサノオアイズ」
佐野一矢、谷戸正樹 

ゴールボールとは

滋賀県ゴールボール協会との交流競技会(島根県邑南町にて)

滋賀県ゴールボール協会との交流競技会(島根県邑南町にて)

東京パラリンピックでの日本代表の活躍を観られたでしょうか。男子は5位,女子は銅メダルと大活躍でした。ゴールボールはサッカーで使うような長いゴールを背に各チーム3名が向かい合いボールを投げ合い得点を競う競技です。視覚障害にも程度差がありフェアにするために競技者はアイゴーグルを装着しブラインドの状態にします。ボールはバスケットボールと同じ大きさで中に鈴が入っており,その音でボールの位置を察知しボールを止めます。ボールは1.25kgあり,バスケットボールの約2倍の重さがあります。その重量のボールがかなりの速さで向かってきますので身体の当たる場所によっては悶絶することもあります。ちなみにパラリンピック選手レベルになると男子だと60-70km/hで投げ合っているようです。ポジショニングは前衛1名が真ん中で,後衛はその両サイドでゴールを守ります。ラインテープ下に凧糸が固定されており,その凹凸を手足で触れることでプレイエリアと自分のポジションを確認します。ボールを止めた後や投げ終えた後に一時「迷子」になることが多く,急いで床を手足で触れ糸の感触を探します。またゴールポストを探しその位置から自分のポジションを確認することもできます。ルール上はボールを止めてから10秒以内に投げ返すことが基本であるため,あまり迷子の時間が長すぎると相手ボールになってしまうため注意が必要です。お互いのゴール間が18mで手前6mずつが自陣,真ん中6mがニュートラルエリアとなっています。投球にもルールがあり,自陣のライン(6m)とニュートラルエリア(中央6m)で少なくとも1度はバウンドさせる必要があります。ハンドボールのようにノーバウンドでゴールを狙うのは反則です。したがって,転がってくるボールに対して,横になって身体を伸ばし身体全体でブロックします。この投げ合いを前半・後半それぞれ12分間行います。

「スサノオアイズ」設立の経緯

スサノオアイズマーク

スサノオアイズマーク

眼科医として病状の悪化や難病による視力低下・失明に至る患者さんと向き合うことがあります。視力を落としていく患者さんを前に眼科医としての限界を感じ打ちのめされることもあります。しかしそこからも患者さんの人生は続きます。その後の生活に寄り添うということも眼科医としての一つの使命であると考えます。視覚障害者となった患者さんに対して(といっしょに)我々ができることは「社会参加への橋渡し」です。できるだけスムーズに日常生活を送れるように機器や用具,設備の充実を訴えていくことに加え,我々はスポーツの存在意義に注目しました。スポーツは社会におけるやりがい・生きがいを実感できる一つのツールです。スポーツをしたいと考えている地域の視覚障害者の選択肢の一つとなること,また障害の有無に関係なく交流できる場になることを理念に掲げゴールボールチームを設立することに至りました。

ブラインドスポーツにも様々な種目がありますが,ゴールボールを選択した理由はこれまでの競技歴のベースを比較的必要としないというものでした。例えば,ブラインドサッカーであれば,そもそもサッカーという競技があってそれをブラインド化したものですのでサッカーの技量があるサッカー経験者が有利になるのではないでしょうか。しかし,ゴールボールはそもそもブラインドスポーツとして発祥したのですから,競技者としての経験がゼロからスタートできると考えました。参加意欲のある人が競技経験を気にせず参加できる,そんな競技としてゴールボールチームを作りました。チーム名は,島根の神話に出てくる「スサノオ」と「眼」EYES(アイズ)で「スサノオアイズ」とし2021年2月に活動を開始しました。

活動

コロナ蔓延の時期もあり,活動場所・人数・時間ともに限られたところからスタートしました。もちろん経験者ゼロですので,インターネットで動画や解説を見ながらまずコートを作成。ゴーグルがなかったため100円ショップで購入したアイマスクを装着し,見よう見まねで競技開始。もちろん不慣れですので顔面打撲など負傷し,翌日筋肉痛といった有様でした。その後モチベーションを上げるべくチームTシャツを作り,擦り傷予防に肘・膝サポーターを装着,山本光学樣からゴーグルの提供を頂き「形」は整いました。しかし,コロナ禍により先行きが見通せず,試合といった具体的な目標が見つからないまま途中惰性になることもありました。とりわけ夏は外からの音を遮るため(ボールの鈴の音を聞くため)体育館を閉め切るので暑さとの戦いでした。そんな中,東京パラリンピックでモチベーションを上げ,現在に至るまで月に1-2度活動をしています。

2021年11月島根県邑南町にて滋賀県ゴールボール協会とのゴールボール交流会が開催されました。邑南町は東京パラリンピックに際しフィンランドチームの合宿誘致をしていたこともありゴールボールの裾野拡大に積極的な自治体です。当日は日本ゴールボール協会技術部部長である西村秀樹樣にご指導頂き大変刺激になりました。競技レベルの高さに触れ,今後は大会に参加し「勝つ」ことを誓いました。

今後の展望

2021年8月の東京パラリンピックの時期に新聞取材を受けたことを機に問い合わせを頂くことが増えました。県外のゴールボールチームとの連携や大会参加のお誘い,また地域の子供達からの見学希望などを頂いています。現在,チームは当講座の眼科医師,視能訓練士で構成されていますが,将来的に視覚に障害のある方,そしてない方も自由に参加できるようにチームのプレゼンスを高めていきたいと考えています。もちろん「競技」である以上は強いチーム・勝つチームを目指して活動を続けていくつもりです。

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第1回視覚障がい者スポーツ体験会
(2019年4月21日実施:東京国際フォーラム)実施報告

視覚障がい者スポーツ
「ゴールボール」体験記

日本眼科医会 広報担当

スポーツを通じて視覚障がいについて考えよう!と始まった「アイするスポーツプロジェクト」。2020年東京パラリンピックに向けて、パラスポーツへの理解を深め、視覚障がい者のQOL向上を眼科医として支援していくプロジェクトです。

眼科医が今まで以上に視覚障がい者をサポートするきっかけになって欲しいとの想いから、第123回日本眼科学会総会〔於: 東京国際フォーラム〕に併設して、平成31年4月21日(日)、日本眼科学会と日本眼科医会が共同でゴールボール体験会を開催し、日本ゴールボール協会の協力のもと、約60名が体験しました。

ゴールボールは、サッカーのゴール(7m32cm)よりも横幅のある9mのゴールにボールを投げ入れる(転がして入れる)競技です。3対3で行われ、攻撃側のうち1人がボールをゴロや数回のバウンドで転がし、守備側はゴールキーパー3人で守ります。あまり勢いよく放り投げると規定のラインを超えてしまい、反則となってしまいます。反則を犯すと、通常3人で守るゴールを1人で守らねばならないというペナルティが課されます。

参加者は「アイシェード」というスキー用ゴーグルの全く見えないバージョンを装着して行います。ボールの中には鈴が入っており、その音を頼りに敵陣から投げ込まれたボールを全身でブロックします。選手は転がるボールの鈴の音や敵の動く音などの「音が頼り」ですので、インプレー中は静寂を守り、選手はもちろん観客もプレーの妨害となる音を出さないようにしなければなりません。ルールの詳細はゴールボール協会のホームページをご覧ください。

いざ、体験! 音が頼り、とはこういうことだったのか・・・

初めてゴールボールを体験してみました。おそらくほとんどの参加者(定員60名)がルールもよくわからない状況だったのではないかと思います。

まずは、ベテラン選手のデモンストレーションがあり、ルール解説を受けながら初めてゴールボール競技を見学しました。敵陣から投げられたバスケットボールサイズのボールを全身でブロックするのですが、見ていた感じではボールは柔らかそうなので大丈夫かな?という印象でした。その後、守備姿勢の練習、そしてボールを投げる練習があったのですが、ここで気づいたことは「ボールが硬い!」というショッキングな事実でした。この事実を知り、ボールが当たると「痛くないのかな?」と少々不安になりました。

最初にアイシェードを装着するのですが、その後は本当に何も見えなくなってしまいます。そのため床に転がっているボールを拾うのが一苦労です。鈴の音を頼りにボールを拾うのですが、見学者から見ると猫がボールとじゃれているように見えたのではないかと思います。どちらが先行になるかを決めるじゃんけんも、声でグーチョキパーを表現して行います。口だけで言えば良いのに、みんな手もちゃんとじゃんけんをしていました。さすがに手と口は合っていたようです。

(写真1)

音だけではなく、手で床のライン紐を触って位置確認

コートの床にはラインテープの下に紐が敷かれており、その紐で自分がどっちを向いているのかを確認して敵陣目がけてボールを投げます。投げたボールは速い方が得点につながりそうなものですが、床がカーペットだったこともあり、回転の少ないスローボールは鈴の音が小さくなるので割と有効だった気がします。練習のときは目をつぶって投げたのですが、アイシェードで全く見えなくしたほうが投げやすかったのは不思議でした。

そして、痛そうで怖かった問題の守備ですが、ボールがぶつかっても痛みはなく、プレーに集中できました。皆さんが鈴の音に敏感に反応し、見えなくても上手に競技ができていたと思います。時々ボールと逆方向に守備体制を取っていた方もいましたが、その辺は初心者ということでご愛嬌です。参加者には高齢の先生方もいましたが、全員怪我なく体験会を終えることができ、安全性も確認できたかもしれません。

最後に、一番びっくりしたのは、我々の模擬試合をずっと解説してくれていた方が全盲であったことです。最初はそれを知らずに解説を聞きながら観戦していましたが、途中で全盲であるということがアナウンスされ、皆、驚きの声を上げていました。まるで見えているかのように、「センターの選手が良い動きですね」とか、「ボールを放り投げてしまいましたね」とか、「惜しくも右のラインを割ってしまいました」と解説されていて、視覚障がいのある方々は視覚以外の感覚が非常に優れており、我々が思っている以上に普通に行動ができるのだなと実感しました。

2019年10月京都府での第73回日本臨床眼科学会でも、視覚障がい者スポーツに関するイベントを開催予定です。皆様ぜひ参加し、視覚障がい者への理解を深めてください。

(写真2)

〈 参加者のコメント 〉

【参加した眼科医の声】

宮城県 伊勢屋貴史先生

日本眼科学会総会でお勉強した後の、日曜日午後にゴールボール体験会に参加してきました。見るのも体験するのも初めてでしたが、楽しかったです。

今回体験して、視覚障がい者への対応を今まで以上に行おうと思いました。

ゴールボールは来年開催される東京パラリンピックの開催競技です。より観戦を楽しむためにも多くの方に体験してもらいたいです。

【視覚障がい者をもつ参加者の声】

日本盲人会連合情報部 三宅隆部長

ゴールボールは初体験でした。普段サウンドテーブルテニス(卓球)をしているが、卓球と比べ、声をかけあってのチームワークが必要な団体戦であったことに違いを感じた。この体験を機に、ゴールボールをもう少しやってみたいという気持ちになった。今後も眼科医の先生はもちろん、多くの方が視覚障がい者スポーツ体験をできる機会が増えて欲しい。

(写真3)

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第2回視覚障がい者スポーツ体験会
(2019年10月27日実施:国立京都国際会館)実施報告

ブラインドマラソン体験会が行われました!

日本眼科医会 広報担当

令和初の日本臨床眼科学会、その最終日(令和元年10月27日 日曜日)の午後から国立京都国際会館アネックスホールにて、視覚障がい者スポーツ体験会第二弾「ブラインドマラソン体験会」が開催されました。

マラソンとは言っても、普段運動不足と思われる眼科医療関係者が中心の体験会で、42.195Kmを走るのではなく、二人一組でホールの会場内を100-200m程度走る企画です。ブラインドマラソンでは、伴走者が周囲の状況を言葉で選手に伝えるとともに、選手と伴走者は1メートル程度の紐を輪にした“きずな”と呼ばれるロープを使い、言葉以外でも意思疎通を行いながら走ります。

日本ブラインドマラソン協会 鈴木邦雄常務理事による「伴走者の心得」の講義を聴いた後、参加者がペアになり、ひとりがアイマスクをして視覚障がい者体験を、もう一人がナビゲーターとしての伴走者を務め、ホール内を1周走って交代し、互いに走者と伴走者の二通りの体験をします。会場のコースには道路上の障害物を想定した高さ10cm程度の木製台が2つ設置されていました。

さて、いよいよ体験会が始まりました。最初の1周、ほとんどの参加者がゆっくりとした歩みでの体験となり、ブラインドマラソンではなく、ブラインドウォークの練習となっていましたが、2周目からはその歩行練習が競歩程度のスピードになり、3周目からは走っているとも言えなくもないスピードを出す参加者のペアも出てきました。最後には障害物を撤去し、会場全体を広く使ったコースでの体験を行い、個々の走力に差はあれども、コツを得た参加者の多くが“きずな”を使って小走り以上のスピードで、楽しそうに部屋の中を走っていました。

(写真1)

今回の体験会は、ブラインドマラソンの選手体験もですが、伴走者体験に比重が置かれていました。伴走者の心得としての、「二人三脚と同様に選手に併せて足を動かさなければならない」、「選手がひとりで走っているかのような気配りをする」といった目標は、ビギナー伴走者には難度が高かったようです。そのうえ、「常に路面や周囲の状況を走者に言葉で伝える」といった当たり前のことも、何か他のことを気にすると、ついつい言葉の情報が不足しやすくなり、これを数時間一緒に走りながらずっと続けるには、かなりの習熟を要とするものだと感じました。その他にも、「選手が走りやすいように手は外向きに振る」「走行中の音は視覚障がい者にとって重要な情報なので、衣擦れ音が多いウィンドブレーカーは着用しない」といったことも学び、伴走者技術の奥の深さを知る機会となりました。一方で、ほんの少しの時間・短い距離でしたが、“きずな”のロープをお互いに持ってペアで走ることに「楽しさ」を感じたことも大きな収穫でした。

現在、ブラインドマラソン協会では伴走者を募集中だそうです。ブラインドマラソンを体験した方も、この体験会報告を読んで興味を持った方も、ぜひブラインドマラソンにトライしてみてください。

〈 体験者のコメント 〉

三好眼科 塚本秀樹先生

これまでランニングドクターとして心肺停止などが発生した場合のために医師のビブスを着けてマラソン大会を走る機会がありました。眼科医の自分としましては、視覚障がいの方が参加されている様子が大変気になっておりました。いつか伴走させていただく日が来ないかなと漠然と思っていたところ、貴重な体験の機会をいただき、感謝申し上げます。

伴走を気軽に考えておりましたが、実際は転ばせないように、障害物や並走者にぶつけないように、安心して走ってもらえるように、伴走者は全神経を使って配慮しているのだと驚くと同時に、責任を痛感しました。また、視覚障がいランナーの方の中には、速く走ることを目標とせず、ゆったり走りたかったり、エイドでボランティアの方とおしゃべりを楽しみにされている方もおられるなど教えていただきました。ひとりで走るのとも違い、ダブルスとして参加するマラソンの楽しみ方に、より魅力を感じました。

 

金井たかはし眼科 高橋義徳先生

臨眼最終日の午後、いつもであれば家路につくころですが今回はランニングウエアに着替えていました。

休日の朝にはランニングするようになり、風景を楽しんで走っていますので見えない状態で走ることは大変なことだと想像して参加しました。

ブラインドマラソン体験開始直後はちょっとした段差も大きな障害となり、大変で想像の通りでした。一方、体験を重ねていくとその大変さとは別に身体の他の感覚を一生懸命使おうとしていることに気づきました。もしかしたらこういう感覚が障がい者スポーツのメリットの1つなのでは?と短い時間の体験ではありましたが感じることができました。

このような体験ができたのも準備・サポートしてくださった皆さんのおかげです。ありがとうございました。

 

尾道総合病院 曽根隆志

ブラインドマラソン歴5年ですが、注意すべきポイントや伴走のコツについて講義があり、大変勉強になりました。体験会では、晴眼者がペアとなり、一人がアイマスクを付け、走りながら15cmほどの段差を上がる、高難易度の走法から始まりました。経験があっても難しいと感じましたが、皆さん、それぞれのチームワークで、難なく乗り越えておられ、驚きました。初心者でも気軽に始めることができ、視覚障碍者、晴眼者ともに、健康的に、元気になり、またダイエットも継続できるものとなります。興味のある方は、是非、各地の伴走チームへご参加下さい。

 

日本視能訓練士協会 南雲幹会長

レクチャー後に「アイマスクをつけた走者」と「伴走者」のペアとなり、二人三脚をイメージしながら早歩き程度から開始。段差の昇り降りの怖いこと怖いこと、特に降りるときはへっぴり腰に。コースを一周したら交代し次は伴走者となる。ランナーの走りに合わせ、カーブする方向を伝えたり目の役割を果たさなければならないとわかっていても、最初はなかなか息が合わない。何周かしていくうちに呼吸も合うようになり最後は楽しく走ることができ貴重な体験だった。来年のパラリンピックではマラソン選手はもちろん伴走者にも声援を送りたいと思う。

 

【指導者からのメッセージ】

指導 ブラインドマラソン協会 鈴木邦雄常任理事

初めて伴走にチャレンジされる方や、すでに伴走を行っている方まで多くの方が参加されました。
 街中をジョギングする際の設定でしたが、交差点の歩道段差や電柱など危険は多いです。
 少しでもそれを知っていただければ幸いです。
 アイマスクをした途端に腰が引ける方、足元を探るように後ろに反る方。
 目が不自由でもジョギングをしたい人がいる事、その際には手を振って走りたいなどを知っていただければ幸いです。

(写真2)

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